「死」は必ず誰にも訪れる。
あなたは自分が死ぬことを考えたことがあるだろうか?
そんなことは考えたくない。
それが大半の人の本音だろう。
人にとって「死」はもっとも受け入れがたいものである。
だからそこから逃げたい。
しかし、いつかは死と直面しなければならないときが誰にでもやって来る。
「死」に関しては、古今東西数多くの偉人が名言を残しているが、今回は2018年9月に亡くなった女優の樹木希林の名言を取り上げてみたいと思う。
目次
死なないで。どうか生きて、命がもったいない
この言葉は、入院中だった樹木希林が亡くなるおよそ2週間あまり前、2018年9月1日に発したものである。
娘の也哉子はその時のことを次のように語っている。
「母は窓の外を眺めながら、『死なないで。どうか生きて、命がもったいない』って繰り返し言うんです。
頭おかしくなっちゃったのかしらと思ったら、2学期が始まるこの日に、いじめや引きこもりで暗闇から抜け出せない子どもたちが、いっぱい自殺してるんだと言うんです」
死が目前に迫ったことを悟った樹木は、未来ある子どもたちが自殺することにもどかしさを感じたのではないかと言うのである。
樹木は、「死」についてこう語っている。
健康な人も一度自分が、向こう側へ行くということを想像してみるといいと思うんですね
自分が死ぬということを想像することの大切さを訴える樹木。
それは自らの生き様を考え直すことになると、彼女は説く。
「健康な人も一度自分が、向こう側へ行くということを想像してみるといいと思うんですね。
そうすると、つまんない欲だとか、金銭欲だとか、名誉欲だとか、いろんな欲がありますよね。
そうしたものからね、離れていくんです」
「死」を考えることで欲を捨てることができる。
樹木はこうも言っている。
「自分が生きてきたことが、人様のご迷惑にならないようにと思ってるの。
生きていることによって、出すゴミがないようにね(笑)」
新しいものはめったに欲しいと思わないという樹木は、家のテレビはブラウン管だった。
さらに、身につける下着も男物で、夫・内田裕也が所有していたもので、シャツは娘婿・本木雅弘のものだったという。
樹木のモノへの執着心のなさを物語るこんなエピソードもある。
彼女は元は「悠木千帆」という芸名で活動していた。
「樹木希林」に改名したのは名前を競売にかけてしまったから。
チャリティーオークションで「売る物がない」からという理由だった。
当然、周囲は反対したが、当人は「特に愛着もないから」と芸名を出品したのである。
(※名前は2万200円で通りすがりの服飾デザイナーが落札したらしい)
がんはありがたい病気。がんは面白い
樹木の死生観は自らの「病」と深い関わりがあるようだ。
生前、周りに「全身がん」と公言していた彼女は、こんな言葉を残している。
「がんはありがたい病気。周囲の相手が自分と真剣に向き合ってくれますから。
ひょっとしたら、この人は来年はいないかもしれないと思ったら、その人との時間は大事でしょう?
そういう意味で、がんは面白いのよ」
「がんになって死ぬのが一番幸せだと思います。
畳の上で死ねるし、用意ができます。
片付けしてその準備ができるのは最高だと思っています」
さらに、こうも言っている。
「病気のおかげで、いろいろな気づきもありましたね。
だって、気づきをしないと、もったいないじゃない?
せっかく大変な思いをするのに、それを『こんなふうになってしまって』と愚痴にしていたら、自分にとって損ですから」
「病を悪、健康を善とするだけなら、こんなつまらない人生はないわよ」
人間は自分の不自由さに仕えて成熟していく
樹木は生きるうえで、不自由さはとても大事だという。
「この年になると、がんだけじゃなくていろんな病気にかかりますし、不自由になります」
「でもね、それでいいの。こうやって人間は自分の不自由さに仕えて成熟していくんです」
そして、大事なのが「不自由さを面白がる」ことだという。
「若くても不自由なことはたくさんあると思います。
それは自分のことだけではなく、他人だったり、ときにはわが子だったりもします。
でも、その不自由さを何とかしようとするんじゃなくて、不自由なまま、おもしろがっていく。
それが大事なんじゃないかと思うんです」
不自由を面白がることで人は成熟する。
こんな境地に達してみたいものである。
もし本気でこう思えれば、人生は輝きを増すにちがいない。
まとめ
樹木希林が残した数々の名言は『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文春新書)という本にまとめられ、ベストセラーとなっている。
それだけ多くの人が彼女の言葉に感銘を受けた証であろう。
樹木は自らの「死」について、こう語っている。
「死に向けて行う作業は、おわびですね。
謝るのはお金がかからないから、ケチな私にピッタリなのよ。
謝っちゃったら、すっきりするしね」
彼女には輪廻転生も信じていると思わせるような発言もある。
「生命は永遠のものだと思っています。
現在、このように服を着た樹木希林は死ねばそれで終わりですが、生命というものはずっと続き、またいろいろなきっかけや縁があれば、次は山田太郎という人間として現れるかもしれない」
そして、冗談ともつかない言葉でこう話している。
「もし生まれ変わったら、内田とはもう逢いたくない。
もし次逢ったら、また好きになってしまってまた大変な人生を送ってしまうから」
樹木希林の言葉はこれからもずっと生き続けるに違いない。