器用貧乏という言葉がある。
「なまじ器用にいろいろの事がこなせるために、かえって大成しないこと」という意味だ。
確かに、大成する人は不器用であることが多い。
彼らの多くはこう言う。
「自分はこれしかできなかった」
そして、この男も同じセリフを口にしている。
ずん飯尾こと、飯尾和樹。お笑い芸人である。
デビュー30年を迎えた彼はここに来て人気が急上昇。
52歳にしてレギュラー番組8本。CM6本。ドラマにも出演している。
第七世代と呼ばれる若手の活躍が目立つ中、ブレイクを果たした彼は40歳を過ぎてもアルバイト生活を続けた超苦労人だ。
そんな飯尾の半生を『金スマ』(TBSテレビ系列・2021年11月26日放送)が特集した。
芸人生活のほとんどを下積みで過ごした彼はなぜ芸人を辞めずに続けてこられたのか?
その裏には、何度も折れそうになった心を支えてくれた3人の大物芸人の言葉があった。
目次
ずん飯尾の下積み芸人生活
飯尾がお笑いコンビ「チャマーず」を結成し、芸人デビューしたのは21歳。
同期にはキャイーン、ナインティナインがいる。
しかし、翌年コンビは解散。
ようやくチャンスが訪れたのは8年後、29歳の時だった。
『笑っていいとも』の隔週レギュラーに抜擢されたのである。
関根勤の舞台に出ていた飯尾を観たディレクターが起用を決めたのだ。
さらに、飯尾は当時の人気番組『いきなり!黄金伝説。』『内村プロデュース』にも出演。
だが、飯尾はせっかくのブレイクするチャンスを活かせなかった。
その頃の自分について、飯尾はのちにこう語っている。
「お笑いの技術がある程度身につき、得意なネタもあるため中途半端に食えており、危機感がなかった」
その後も低迷は続く。
「崖っぷちのはずなのに危機感がない」
それでも芸人を続けられたのは、先輩や同期の言葉があった。
「飯尾面白いね!」
飯尾はこの言葉をこう表現している。
痛み止めの注射。
こうしてまったく芽が出ないまま30代を過ごした飯尾。
そんな彼を救ってくれたのが、とんねるずの石橋貴明だった。
この世界、面白いことちゃんとやってれば一発逆転あるから
あるとき、石橋と飲む機会があった。
どうすれば売れるのか?
その問いに石橋はこう答えた。
「この世界、面白いことちゃんとやってれば一発逆転あるから」
逆転がある。
この言葉は響いたという。
そして、もう1人、飯尾の心を揺さぶった男がいた。
明石家さんまである。
食えなくてあたりまえの世界やからなあ。でも好きなことやれてるのって幸せやなあ
40過ぎて、さすがに焦りを感じていた飯尾に明石家さんまはこう声をかけた。
「頭のいいやつは芸人辞めていくんやで。食えなくてあたりまえの世界やからなあ。でも好きなことやれてるのって幸せやなあ」
飯尾はこの言葉を聞いてこう思ったという。
「さんまさんも腹をくくってる。いつ食えなくなるかわからない世界で。
好きなことやれるのは幸せ。そりゃそうだよなと思った」
この言葉を糧に飯尾は好きなことをやり続けた。
しかし、売れない。
そんなとき、再びある大物芸人の言葉に救われるのである。
時代は追っちゃいけないよ。流行りものに流されると何が面白いのか、わからなくなるから
それはタモリの家に新年のあいさつに行ったときだった。
酒を飲みながら、仕事の話になった。
飯尾はタモリに尋ねる。
「どうすれば仕事が増えると思いますか?」
タモリは少し考えてからこう答えた。
「飯尾なんか会った時からずっと同じことをやっているよな」
「これしかできないんで」飯尾が言うと、
「それでいいんだよ。ずっとやってろ。時代は追っちゃいけないよ。流行りものに流されると何が面白いのか、わからなくなるから」
この言葉で飯尾の迷いは吹き飛んだ。
「器用じゃないんだし、やり続けるしかないよな」
そう自分に言い聞かせたという。
飯尾はこのときのことをこう振り返っている。
「芸風を変えなかったのではなく、できなかった。だってやりかたがわからないから」
不器用だからただただやり続けてきた。
すると、彼のところには徐々に仕事が舞い込むようになったのだ。
関根勤は飯尾がブレイクした理由をこう語る。
「やっと飯尾君の年齢と外見の渋みに芸風が合ってきた」
確かに、飯尾の芸は若手がやると、スベってしまいがちなギャグである。
実際、彼は若い頃、何度もスベり体験をしている。
しかし、いい年をした男がやると、逆に味があって面白い。
いぶし銀に変わるというわけだ。
キャイーンの天野はこう言っている。
「芸風とかやってることは本当に変わらない。時代が追いついてきた。熟成肉のようなもの」
さらに、時代が飯尾に味方する。
お笑い番組は年々コンプライアンス重視で過激なことを言いづらくなっている。
しかし、飯尾の芸は誰も傷つけない。
そう、そんな彼の芸風が時代に合ってきたのである。
まとめ
50を過ぎてブレイクし、中年の星となった飯尾。
彼が成功したのは、愚鈍に自らの芸をやり続けてきたことに他ならない。
実は、不器用というのは才能なのかもしれない。
そして、不器用は個性なのだろう。
あなたの周りを見渡してみて欲しい。
個性的な人というのは、たいてい不器用である。
その不器用を貫けるかどうか?
それが成功する鍵なのではないだろうか。